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August .1.2016 

 

昼間のうだる熱気の記憶が、アスファルトから立ち上る夕暮れに、表戸を外した、いつもの席へたどり着き、コップのひやをなみなみと一杯。
銘柄がどうのこうというより、この一瞬が天の美禄。
口からお迎え、減ったところに、受け皿に溢れた酒を継ぎ足し、またお迎え。
一息ついて、つまみの思案。
あとはゆっくり、空が茄子紺色のケープを引いて、星を迎える準備をする。

コップのひやはほんとうにやさしい。
最初から最後まで、同じ顔で付き合ってくれる。
手酌の手間もなし、気が置けない相棒。
コップの燗は早く冷めるし、冷酒はじきに汗だくで美貌も形無しだ。

なぜこんなに「ひや」にこだわるのかといえば、夏ばての身体には、体温より少し低い室温の酒が、なによりうまく感じられるからだ。
点滴や電解質のように、すうっと染みこみ、半身浴のようにじんわりほぐれていく。
八月の盛夏こそ、ひやの優しさを求めたい。

photo by t.ogawara