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蕎麦屋の「大いなる誤解」を解く!!

問わず語りページ

6. 「地産地消」なんて!「あおやぎ」編

 2月11日から開催された「2005小樽・雪あかりの路7」。
 7回目にして、立ちあげた頃の実行委を知らない、三代目の事務局長・事務局次長の時代になった。
 立ちあげた第一回目は、取材に来て頂こうとTV各社に頭を下げて挨拶回りをしたものだった。
 が、変われば代わるもの、7回目ともなると、オープニング・セレモニーはTV各社のカメラの砲列。
 冬ソナ監督ユン・ソクホ氏の来樽サイン会では、監督が大変シャイな人でそれを気遣い、新事務局長がTVカメラマンが睨むのも意に介さずで、報道規制をするほど。
 わずか七年とはいえ、時の流れをシミジミ感じる。
 が、これまで様々な形で雪あかりの路を支援して頂いた市民・団体・会社の皆さんには、変わらず支持していただいている事だけは、肝に銘じてもらいたいと新事務局にはお願いしたいと思う。    開催三日目の13日、韓国・オーストラリアからきた50名の若いヤッケのボランティア歓迎交流会が、宿泊している朝里のペンションのオートキャンプ場で、それも零下8度の「屋外」でジンギスカンパーティで開催された。
 雪あかりの路実行委スタッフは元気だから、午後10時までの雪あかりの路の作業を終えても、100名以上が参加。
 私ども「年寄り」は限界で、二時間で撤収。
 嬉しい事に小樽の歯科医師会の有志の先生が浄財を募り、海外ボランティアに日本の食文化をと弊店の蕎麦をたべさせたいと言って来てくれ、50名の海外ボランティアを二班にわけご馳走する事ができた。
 ・・・本当の民間国際交流が、「雪あかりの路」にある。
 ・・・そんな雪あかりの路の最中に「事件」はおきた。

 TVHでリクルートじゃらん北海道が提供する
  「旅コミ北海道・じゃらんde GO!」
が、雪あかりの路の開催二日目の2月12日に、
  「明日は『小樽・雪あかりの路』へ行こう
と、「小樽&朝里川温泉・日帰りグルメドライブ」と題し放映してくれると連絡が入ったのは、二月初旬だった。
 小樽の様々なお店を紹介頂き、弊店も紹介を頂くことになった。

 で、無事撮影は終わり、放映された2/13の午後7時過ぎ。
 弊店は、雪あかりの路へこれから行かれるお客様、会場から冷えた体でご来店頂くお客様でごった返しの戦争状態で、生憎その番組がある事も失念し、お客様のオーダーを少しでも早く出そうと板場で陣頭指揮していると、帳場から、
   「TV番組のことで、お客様からお怒りの電話が」
と、受話器を渡された。
 猫の手も借りたいほどで、受話器を頬と肩で支えながら、天麩羅を揚げお話を承った。

 大変お怒りの大きな声が受話器からバズーカ砲のように。
   「一体全体、1400円(正式には1,417円)の蕎麦とはナニゴトですか!」
   「私は小樽のまちが大好きです。ですが、寿司屋の価格の高いのには少々疑問。」
   「小樽観光の来訪者数にアグラをかいた金額設定で、
    こういう商売をしているとお客様は小樽から離れていく。」
   「今番組をみたが、普通蕎麦屋の天ぷら蕎麦は700円から800円なのに、
    1400円の蕎麦とは、寿司屋と同じような商売姿勢としか見れない。」
というお電話だった。

 こういうお電話をわざわざ頂く、本当にありがたい。
 まして弊店の問題だけではなく、小樽ファンで小樽観光を気づかって頂くお電話で、もう嬉しい限りだ。
 まだ自分自身TV番組を見ていないので、録画を見た上で、ホームページできちんと応答させて頂きます、とそのお客様に約束をし電話を終えた。

 ・・・そう、あれは、2月2日だった。
 番組制作のディレクターが、
   「タイショー、小樽らしい、冬の温かい『お蕎麦』でいきたいんです。
    タイショーは後志広域観光を頑張っておられますでしょう。
    後志のこれはって食材を使った、蕎麦屋ならではの地産地消のメニューってありませんか?」
といってきた。
   「また、『地産地消』かい?  
   お前らはすぐ流行のタイコで、気安く地産地消を使いたがる。    
   が、やる方はとんでもなく大変なのわかってっか?」
   「そ、そう言わないで。」
   「お品書きの最初に、海の食材使ったお蕎麦があるがね。」
   「ほおぉぉ。ありますねぇ。
    『あられそば』
    『帆立あられそば』
    『雲丹とじそば』
    『牡蛎そば』
    『蝦夷そば』
    と、海のシリーズってわけですね。
    いいじゃないですか!
    雪あかりの路で冷えた体を暖める、海のある小樽らしい温かいお蕎麦、最高です。
    画(え)になります。
    で、タイショー、この雲丹トジ蕎麦というのは?」

   「うぅ〜む、お寿司とちがってな、生雲丹ではダシの利きが悪い。
    ダシがよくでる『蒸し雲丹』を使って、卵でとじてる蕎麦だ。
    その辺TV見られたお客様が、生雲丹のイメージでこられるとな、ぐちゃぐちゃになるな。」
   「なるほど、あえておダシを引き出すためにムシ雲丹なんですねぇ。
    で、この『あられ蕎麦』って、私初めて聞くお蕎麦です。」
  「ウン、これはな、蕎麦屋の親爺が、きばってメニューにした蕎麦だな。」

青柳貝の小柱

「ほう? タイショーがきばってメニュウにした、それ面白い。」
「うん、『あられ』は東京では寿司ネタに切っては切れないネタだわ。
 蕎麦屋でも、昔からなくてはならない食材をだな、使った蕎麦だ。」
「へぇぇ、一体『あられ』って何なんですか?」
「そうだな、お前さんのような若者、潮干狩りなんかしたことあるかい?」
「潮干狩り? いぇぇ、あまり。」
「だろうなぁ、これだからTVゲーム世代は困る。
 あのなアサリ、ハマグリなんて潮干狩りで採るの、話には聞いているだろう?」
「はい、それは」
「バカ貝なんて名前の貝は知ってるか?」
「なんか、聞いたことあります。」
「ほう、そうかい、うん、二枚貝でな、北海道沿岸でも採れる。
 小樽の子供は、昔は良く塩谷海岸や蘭島海岸、熊碓海岸や朝里海岸でな、採ったものさ。」
「あのぉぉ、『あられ』そばの話が『バカ貝』に・・・?」
「お前さんバカかい? だからその『あられ』の話しているんだ。」
「す、すみません。」
「そのな、バカ貝の小さな貝柱が、『小柱』とか『あられ』と呼ばれるんだ。

籔半・酒肴メニュー・柱わさび 正式名称は『青柳貝』って粋な名前だ。
 千葉県の青柳海岸で良くとれてな、その地名からそう呼ばれるようになった。
 東京では大変喜ばれる食材でな、今じゃ高級食材だ。
 北海道では全然メニューに使われないが、東京の寿司屋じゃ、軍艦巻きにしてな。
 和食じゃ、ワケギなんかと合わせて『ヌタ』などにするし、天麩羅屋じゃ『かき揚げ』に、そして、われわれ蕎麦屋じゃ、そのまま本山葵で「刺し身」や『あられそば』など献立になる。
  江戸前の料理になくてはならない食材だ。」
「へぇぇ。知りませんでした。」
「だろうな、折角北海道で採れるのに、肝心の地元でポピュラーじゃねぇ。
 それもこれも、北海道では食材として使われネェからな。
 真っ直ぐ築地にいちゃうって馬鹿な話よ。
 ったく、悔しいわ。
 採って砂を抜くのに水に漬けておくとな、すぐ橙色の舌みたいなのをだらりと出してな。
    その姿がだらしなく、間抜けに見えて『バカ貝』なんて名付けられたんじゃねぇかってな、
    言われる。」
   「ま、人間は本当勝手なものでな、『バカ貝、アホウ鳥』なんてひでぇ名付けをするわね。
   バカ貝:青柳貝  付けられた方にしたらたまったもんじゃねぇ。」

「あのぉ、タイショー『あられ』は?」
「ったく、横から口だすなって、そういうの『蕎麦屋の湯桶』ってんだ。」
「ハッ?」
「まあ、いい。  
 この貝の貝柱は、大星、小星と呼ばれてる。
 この『バカ貝』が刺し身なんかで出されると、
 『青柳』とか『姫貝』 なんてちょっと色っぽい、粋な名前で呼ばれる。
    ま、貝ってな、剥いて開くとな、マ、ソノ、ナンダ、あれだな、アレ。」
   「あれって、なんですか?タイショー、なんか、にやけてます。」
   「ははは、ま、調理などしないお前さんにはわからんわ。」

青柳貝の説明写真「貝の殻から剥いた身を『シタキリ』って言ってな、これは和食・洋食様々に使われる。
 で、肝心の貝柱の方は『帆立貝柱』と勘違いされちゃなんねぇからな、
 指の爪くらい「の小さな貝柱だてぇんだ、『小柱(こばしら)』ってな粋に呼ばれてる。
 二つある貝柱の大きい方を『大星』、
  ちっちゃい方を『小星』
と呼ぶんだ。」
「へぇぇ」
   「昔は貝柱っていやぁ、この青柳貝の『小柱』を指したもんだがなぁ。
    今じゃ貝柱ていやぁ「帆立貝」が一般的になっちゃって。
    北海道は帆立貝ってな、やだな、そういう変わりようは。
    勝手に昔ながら親しまれてきた通りの名前を、メルヘンだ、セントラルだって
    変えてしまう。
    それと同じ、歴史を無視した、小賢しく無責任極まりないてぇ奴だ。」
   「はぁぁぁ!」
   「昔からある呑み屋街の通りの名前が、変な当て字使った通り名になっちゃな、気色悪い。
    駅前の中央通りが、なんだぁ、セピア通りなんてな、虫酸が走るわな。」
   「あのぉぉ、『あられ』はぁぁ?」
   「ははは、スマン。
    で、この青柳貝の『小柱』をな、江戸の人達は粋に『あられ』って呼んだもんだ 。
    粋なネーミングじゃねぇか!
    その、『小柱』を使った蕎麦が『あられそば』と謂われるようになったわけよ。」
   「成程ぉぉ!」
   「でな、北海道の人はあまりこの剥き身を食べない。
    が、日本海沿岸やオホーツク沿岸で採れるんだ。
    その『バカ貝』、いや『青柳貝』は真っすぐ東京築地市場にいっちゃう。
    情けねぇ、小樽の市場のセリにさえ出ないってわけさ。
    ナンカな、エライさんたちがな、何でもかんでも
    「地産地消」だぁ、
    「産消協働
    だぁってな、真面目な顔して言葉遊びしてくれるがな、流通を放りっぱなしにして、
    ただ叫んでるだけ。
    無責任すぎるわ。」
   「あの、『あられ』・・・」

青柳貝・小柱・折り

 「フフフ、でな、後志の日本海沿岸では寿都(すっつ)では、この青柳貝が採れてな。
 真っすぐ東京築地と札幌市場にいっちゃうてぇわけよ。
 何と、後志の小樽の蕎麦屋が、この『小柱』を買うには札幌市場までいかにゃならねぇ。
 貝を開け、シタキリと大星と小星にわける作業もあるし、とりわけ、小柱は鮮度が命だからな、水揚げしたらすぐ出荷しなきゃならねぇ。
 で、まして札幌市場では仲々売れない、お値段も自然に高くなるわけだわ。
 生雲丹のように折りに盛られてな、一枚で生ウニより高いときもある!」
 「生ウニより高いんですか?そうなんですかぁ。」
 「でな、その折一枚の『小柱』を、『あられ蕎麦』では三分の一以上、使う。 おれっちでは原材料費がダントツにかかるメニューだわ、ぎりぎりの価格で出してる。」
 「あまり利益がない?」
 「で、板場の主任は利益が出ないってな怒り、女将が怒り、俺だけが頑張る。」

 「蕎麦のメニューじゃ、ダントツに高くなるわけですね。うぅぅん、それが弱みですか?」
 「でもな、後志の海でこんな旨いもんが採れる。
  こんな酒肴に最高な、粋な『小柱』の刺し身を、取れる土地でこそ知って欲しい。
  こんな馥郁たる芳醇な味を、産地の後志の人こそ知ってほしい。
  というわけで頑張ってメニュウにしている。」

あられ傍

籔半蕎麦メニュー・あられ蕎麦  『あられ蕎麦』はな、漆塗りの蓋付きで、お席のお客様にお届けするんでぇ。
 蓋を開けた時の海苔とあられと磯の香りを味わい、何とも言えない『小柱』の、繊細な中に自己主張するおダシのコクをなぁ、蕎麦と一緒に味わってもらいたい。」

  「うぅぃむ。いい、イイです。」

「だからといって、実際食べて頂いてナンダって思われるお客様だ っておそらくおられる。
  ま、蕎麦屋親爺の想い入れだけのメニューだから、財布が寂しい時はヤメのメニュウだ。」

 「いいです、イイデス、その話、 やりましょう、『あられそば』で行きましょう!」
 
「だから、値段が張る。」

「イイじゃないですかぁぁ。後志の広域観光頑張る蕎麦屋のタイショーだからこそやるコダワリ・メニューですわ。」
「あのな、その『こだわり』って言葉使うのやめなぇか? こだわりって昔は、あまりいい意味で使われなかった、今じゃ、なんだかいい言葉って使い方していて、やだ。」
 「はあ、でも今は今です!」

青柳貝・貝柱・大星、小星 「そうだな、が、なぁ、ナンデこんな値段かって、怒られるかもしれんがな。
 水産加工場でおばさん達が一個一個『青柳貝』の殻剥いてやるわけだからな。
 殻剥くだけじゃねぇいからな。剥き身から、指の爪くらいのサイズの貝柱を綺麗に採って、丁寧に折りに盛りつける。
 手間は、生ウニの折以上だわな。」

「はい」

「だから、安易な地産地消ムードだけで、地場産品をといってくれるなってな。
 なんでも、消費者振りで好き勝手にいうが、提供する方の苦労を知ってもらうにも、いい機会かな。」
   「はい」

籔半の酒肴メニュー・たちかま

タチカマもそうだな。知ってっか、タチカマって? 」
「スケトウダラの白子で作った自家消費だった食材くらいしか・・」
「おお、よく知ってるじゃねぇか、感心だ。
 水揚げしたスケトウダラをすぐ処理してな、白子に粗塩をまぶしスリコギでおろし、茶巾にしてな、茹で上げる。 日本海の味そのものだ、フォアグラなんぞに負けはしない。」
「岩内のおばあさんが一人で頑張っている小さな水産加工場でな細々とつくられてきたが、ひょんなことから雑誌に紹介されてな、で一気に知られるようになって、人気が出て。」
「鮮度がよくないと綺麗な形にふんわり固まり、まとまらない。
 で、作った製品のうち四分の一は駄目にするって話だ。
 で、澱粉いれりゃ固まりやすくなるが、そのお婆さんはそな誤魔化しせん、ってな。
 頑張ってる。 嬉しいよな。
 でも、後継者いないからその婆さんが元気で作ってくれる今のうちに、食べんとな。
 何とか後継者ができねぇかって、そればっかり願っている。」

「タチカマもそうですか、いやぁぁ、いい話聞きました。」
「やっぱ、食べて頂くお客様も 、その生産プロセスや作り手 の想いをな、理解してほしいわな」
「です、デス、『あられそば』で決めましょ!」
「よぉぉし、なら、やるか!」
「おぉい!女将、『あられそば 』で行くって、板場に通してくれ!
 カメラさんが合図したらな、メニューにかかれって、な。」

 ・・・というわけで、2月12日のTVH「旅コミ北海道」での、弊店のお薦めメニューは
   『あられそば』
にi相成った次第。
 で、その結果、

「一体全体、1400円(正式には1,417円)の蕎麦とはナニゴトですか!」
「私は小樽のまちが大好きです。ですが、寿司屋の価格の高いのには少々疑問。
 小樽観光の来訪者数に胡座をかいた金額設定で、こういう商売をしているとお客様は小樽から離れていく。
 今番組をみたが、普通蕎麦屋の天ぷら蕎麦ですら700円から800円なのに、1400円の蕎麦とは、寿司屋と同じような商売姿勢としか見れない。」

というご指摘を頂くことになった。

 いわれるまでもなく、地物粉(北海道・蘭越産産・石臼引きソバ粉で打った)「かけそば」にくらべ、「あられ蕎麦」¥1,450は、確かに高い。
 「天ぷら蕎麦」は、ご指摘頂いたお客様許容範囲内に弊店の価格はおさまってはいる。
 蕎麦は所詮庶民の食べ物だ。
 口の悪い弊店のお客様の中には、所詮蕎麦など「救荒食」だなどと嘯いてくれる方もおられる。  確かに、奢った価格設定は、蕎麦屋そのものを堕落させる。
 が、この青柳貝の『小柱』は生ウニと同じサイズの木の折りで売られ、弊店仕入れの際、高い時で一枚1,700~2,000円する。
 旬は違うが、赤の生ウニの折りより高い、2,000円台が続く時もある。
 これを弊店では『あられ蕎麦』一人前では、こまい小星が多い時もあり大星が多い時もあり、その時々でグラム数ではいかんともし難く、平均1枚の三分の一から二分の一を使用する。
 弊店は二種類の麺をお客様のお好みで選んでいただくようになっているので、北海道蘭越産ソバ粉で打った地物粉麺で、この『あられ蕎麦』を提供するとなると、お値段はどうなるか?

  当然利益も計算し、使用する『小柱』原価600〜800円とすると、上記のお値段をいただかないとまかたしない。
 粗利益率が私どもの飲食世界では一番大事だが、弊店メニューでは一番粗利益率が悪いメニューではある。
 お電話頂いたお客様の「高い」というご指摘は、弊店メニュー構成からしてもその通りだ。
 が、蕎麦屋親爺の想いの「高さ・強さ」もそのとおりで、是非ともご理解頂きたいとお願いするよりない。

 弊店は、お客様から温かいご指摘を受け、五十年数年間育てて頂いて今日ある。
 色々なご指摘の内、「高い・安い」のご指摘ほど、むずかしいことはない。
 そもそも高い、安いは相対的な感覚でもある。
 お客様からすると「安ければ安い方がいい」に決まっている。
 が、きっちりした原価管理をしなければ、私どもの蕎麦屋も生きていけない。
 チェーン居酒屋の価格が安価なのは、そこには大量仕入れだけではない生産者や流通の暗闘すらあり、そんな戦争に小店が巻き込まれることなどまっぴらゴメンなだけ。
 旨いモノはそれなりの金額ってものがある、といいたい。
 今日のような「安価競争」に巻き込まれ、結果スタッフを給料でいじめるわけにはいかない。
  「そうであれば、メニュウなどにするな
と言われそうだが、
  「別に無理して食べていただかなくて結構」
となり、そこまでいくと
  「蕎麦屋の想い
  「蕎麦屋親爺の美学
までの論議になる。

 世の中、スローフーズ、スローライフ、地産地消などという言葉が蔓延する。
 いいことではある。
 が、それを実践しようとする私ども飲食業界の苦労は、並ではない。
 その並でない苦労を苦労と表現するのか、しないのかは経営者の感覚に任せられる。
 そんな作り手の苦労など一切表にださないで、さらりと提供するのが『粋』だと思いたい。
 ただ、地産地消を殊更『売り』にする店も野暮ったい。
 本来、地場産品を使うことは「安価」が当然なのだが、そうはいかないのが今日の流通構造だ。
 地場産品を使えば使うほど、仕入れ価格は高騰し、結果定価に跳ね返るという逆の結果になる。  本当に全部地産地消などしたら、経営的に麻痺する。

籔半・蕎麦メニュー・えぞ蕎麦

 弊店では海の食材をつかった温かいお蕎麦メニュウが数点ある。
 その中に先代がメニュー化した
   「蝦夷蕎麦」
がある。  
 弊店の海の食材メニューの第一号で、北海道特産の昆布を、地場の昆布屋さんにオボロ昆布に加工して納めてもらい、そのオボロ昆布のトロミで召し上がって頂くメニューだ 。
 しかし、この昆布が高騰を続けている 。
 これ叉、原価計算をすれば『あられ蕎麦』に次ぐ粗利益率の悪い蕎麦メニュウなのだ。
 が、
  「先代の想いをこめて作ったメニューを俺の代で消すわけにはいかん
と今も何とか続けている。

 蕎麦屋の定番メニューの
   『かしわ蕎麦
も、弊店では今、メニュー存亡の危機に来ている。
 多くの蕎麦屋は『かしわ蕎麦』の鳥肉を、「若鳥肉」を使用し、メニューにしている時代になってしまった。
 だが、残念ながら若鳥ではいいダシがでないし、肉はぺちゃぺちゃだ。
  「そんなの『かしわ蕎麦』なんかじゃねぇ、単なる鳥肉蕎麦だ
と、変質してしまっている。
 「かしわ蕎麦」は『親鳥生正肉』の『ダシ』で食べる蕎麦メニューだったのだ。
 が、いつのまにか『』を食べるメニューになってしまった。
 それはそれでいい。時の流れ、と思うよりない。
 が、弊店は時の流れにのりたくない・・・お生憎様ってぇ奴だ。

籔半・蕎麦メニュー・かしわ蕎麦

 先代が現役の頃、「かしわ蕎麦」の『親鳥正肉』が固いとお客様からクレームを頂き、柄にもなく気弱になり若鳥肉に換えようとしたことがあった。
 で、親鳥正肉のダシの旨さで食べて頂くか、若鳥肉の柔らかさで食べて頂くかで、親子喧嘩になり、花園町の飲み屋でも大論争。
 たまたま市内の硝子工房の親方がカウンターでその話を聞いていて、私ども親子の論争に参加して、結果先代は、当時若い跡継ぎ息子の顏を立ててくれ、決着。
 以来、続いてきたメニューだ。
 少々煮ると固くなってしまうマイナスがある。
 が、生の親鳥の正肉が醸し出す甘くコクのある、それでいてしつこくないダシの旨味で食べて頂く「かしわ蕎麦」をつらぬきたい。
 親子喧嘩までし、飲み屋で和解した親鳥生正肉使用の『かしわ蕎麦』なのだ。

 しかし、この親鳥の「生正肉」を提供してくれる小さな養鶏場は激烈な価格競争で経営が成り立たず、激減してきている。
 「冷凍」の「生正肉」では、その独特のコクのあるダシは望むのが無理。
 やっと見つけた余市の有機栽培農家が提供してくれた親鳥「生正肉」も、市内の食肉店が保健所指導で下処理をしないという事態もあいまって、自分達で下処理しなければならなくなってきた。
 しかし、他の仕込み業務との兼ね合いで、親鳥の下処理の手間をこなす時間がとれず、ますます困難になってきている。
 こういう下処理の面倒さを価格に転化などしたら、わやだろう。
 それでも頑張ろうとはしている。
 蕎麦屋では定番メニュウの「かしわ蕎麦」でもこういう苦労がある。
 簡単に「地産地消」など本当に言って欲しくない、と言わせてもらう。

 これまでお客様から
  「鰊(にしん)蕎麦」
のオーダーを頂くことが多々あったが、弊店はメニューにしてこなかった。
 「鰊蕎麦」は京都のお蕎麦屋さんが、北海道のミガキ鰊を丁寧にもどし味付けし蕎麦のメニューにされた、京懐石料理の流れからきた、京都オンリーワン・メニューだ。
 干物を戻し旨く調理味付けする京料理発祥の地だからこそのメニューだ。
  お客様は、過去鰊の水揚げは北海道であろうから、「鰊蕎麦」も北海道から始まったメニューと誤解されているわけだ。
 「『鰊』を北海道で食べるなら、一番美味しい調理方法、焼いて食べて頂きたいです。
   わざわざ干物にしたミガキ鰊を調理した『鰊蕎麦』を食べたいなら、それは京都旅行で召し上がってくだされば。」
と、弊店ではそう言ってきた。
 そして、その鰊蕎麦の原材料の「ミガキ鰊」に問題があった。
 これを小樽で得るのが、難しい。
 品質の良い「ミガキ鰊」を生産される水産加工場は、当然のことだが永年の販売先である関西京都のお得意さんを大事にされ、真っすぐ本州に出荷される。  
 そのルートに、横から入り入手するのは大変難しい。
 一方、市販される「ミガキ鰊」は、鰊の内部からにじみ出る脂ではなく、油を塗って販売されるどうしようもない製品が多く、使う気にならない。
 さらに、多くの蕎麦屋が本物の「ミガキ鰊」から戻して各店各様に味付けして出すケースは、あまりにも少ない。
 味付けされている業務用「ミガキ鰊」缶詰めを安易に購入し、「鰊蕎麦」としてメニューにするケースが大半で、そんなメニューなら弊店は金輪際したくない。

 地産地消にはそういう苦労がある、そこを覚悟してやらにゃならない。
 やっと

 ・・・ここまでMacにむかい、目をしょぼしょぼさせ入力していると、スタッフ達は営業を終え退社し、帳場で女将はその日の伝票を整理し、私はその帳場の陰に鎮座する初期iMacのトロサに舌打ちし、いじり、疲れ、腕を組み、伸びをする。
  女将が、
   「お電話のお客様にご理解頂けるといいですねぇ。」
   「ウゥゥムムム、よかれと思ってやった地産地消メニューなんだがな。 価格が仇だな。」
   「お寿司屋さんで1400円の握りって結構あるのですが、蕎麦屋ではね。」
   「札幌の蕎麦屋でも、目が飛び出る価格のお店あるんだがなぁぁ」
   「私どもの店への、小樽のまちへの期待で、お電話頂いたのですね。」
   「そうだ、あり難い電話なんだがな。 わかっていただけるといいんだが・・・。」

 組んだ腕をほどき、女将が差し出すお茶を手にとる。
 旨い。
 と、女将が、
   「でも、うふふふ、『地産地消』って夫婦では簡単ね。アナタ!」
 ・・・来た!アナタだ。
   「フ、フ、夫婦で『地産地消』ってぇl? な、な、なんだぁ、それぇぇ」
   「婦産夫消、夫婦で産みだす愛を夫婦で消化する・・・・」
   「ったく! な、なんだぁ???!!!」
   「その結果が、私達の娘三人、皆なんとか育ってますね。」
と、こちらを見入る女将の顏をみる。
 ・・・なにかしら化粧が、濃い・・・気がする。
 咽がゴクリとなり、お茶を飲み干す。
 懐の携帯が鳴って・・・くれる!
 雪あかりの路のメンバーの番号だ。
 天の助け!
 無神論者も、このときばかりは運命論者になる。
  「も、も、もしもし、ああ、何、雪あかりの路の会議で揉めてる?
   おお、今からすぐいく!」
  「あ、あのな、か、か、会議だ、会議!雪あかりの路で会議だから来てくれってな、
   行ってくる。」
 羽織ったオーバーを貫き、女将の目線が背中に突き刺さり心臓をえぐる。
  「お風呂立てておきますね、会議屋さん!」
 妖しい含み笑いを背にうけひとまず店を出る。
  会議が長引き、ラーメン「久松」が開く時間まで花園町でがんばれば、テキは寝てくれるとほくそ笑みながら、街に打って出る・・・私がいる。

 この項、完

 

 1.黒い色の蕎麦こそ、本物の蕎麦だって?

 2.芸達者な《天ぷら蕎麦》

 3. 蕎麦屋なのに「丼物」があるなんて!

 4. 蕎麦粉の「偽装表示」ぃぃ、親父だせぃ!

 5. 蕎麦粉の「偽装表示」ぃぃ、またまた親父だせぃ!

 7. 蕎麦屋や、鮨屋って「粋」なんだって!

 8. 旨味や滋味って何処にいってしまったの?