05.蕎麦屋の偽装表示ぃ!またまた、親爺出せぃ!!
弊店の板場の主任が、突然
「ボタン種のソバ粉を打ってみたいです!」
と言ってきた。
この一ヶ月、弊店の「日本酒のラインアップを検討する。」と言うと、台風18号の中を車を飛ばし、道内で一番日本酒の品揃えがいいと言われる室蘭の酒店で十数種類の純米酒を買ってき、更に追加注文し、純米酒の日本酒にハマッテいる主任が、である。
こうやって仕事にどん欲で張り切る主任がいて、蕎麦屋親爺は「観光ヘルスマ」を思う存分やれる。(^^)
注:この「観光ヘルスマ」の命名者は、小樽フィルムコミッションで活躍するT嬢。 国道交通省が全国100人の観光カリスマを剪定し、選定証を市長から授与された翌日、私の持病の椎間板ヘルニアが大噴火、一ヶ月立ち上がることも出来なかった
そんな私をあざ笑い、間髪入れず「観光カリスマと椎間板ヘルニア」を掛けて「観光ヘルスマ」と命名してくれた。
但し、決して俗世間の「ヘルス・マニア」の略ではない事は名誉にかけて言っておく。
話をもどそう。
恥ずかしい話だが、まだ私も「ボタン種」のソバ粉は二度ほどしか打った事がない。
「ボタン種」ソバの栽培農家が極めて少ない道内では、石狩川と樺戸連峰に囲まれた浦臼町が、有数の産地だ。
そのソバ栽培農家に昔聞いたところによると、ソバは他種交配が非常にしやすい植物で、「種」をしっかり分けて栽培するのが難しい《虫媒による他殖性種子繁殖作物》であるという。
一方、全国のソバ栽培地で有名になっているソバの「種」は「キタワセ種」が主流だ。日本一の作付け面積と生産量を誇る北海道も「キタワセ種」がメインになっている。 弊店に入荷されるソバ粉もこの「キタワセ種」だ。
ただ、「ボタン種」のソバは、香りが高く、こくのある味が特徴だ。
だが、この「ボタン種」を入手するのが難しい。
実は、このボタン種のソバを積極的に販売しようとしていたのがこの「蕎麦屋親爺の問わず語りページ」の「その4、ソバ粉の偽装表示ぃ!親爺出せぇ!」で紹介したY1製粉所だった。
新聞で、
「店頭で販売した一キロ詰めソバ粉の表示が「道産そば100%」としながら、カナダで栽培して逆輸入したソバ粉を混入、ブレンドして販売したのは、消費者に不信を与える表現だ」
として、まるでキャンペーンのように大批判された事件は、蕎麦好きの方ならご存知だろう。
さて、弊店の主任の話にもどそう。
10月上旬北海道を襲った台風18号で北海道のソバ産地は、壊滅的な被害にあっている。本年度の新ソバ粉の手当もおよばないと蕎麦屋も製粉所もお手上げ状態に近い。
弊店はいまのところ長年の取引関係で本年度新ソバ粉を納品して頂いている。
外国産ソバ粉混入報道をいいことに、蕎麦屋の全国会議でライバル製粉所がここぞとばかり、
「わが社は、混入は勿論ないし、本年度新ソバ粉をここにおられる蕎麦屋さんには納品できる。」
と見栄を切り、逆に
「絶対、本年度新ソバ粉を継続納品できるという保証をせよ。」
と蕎麦屋から突きつけられ立ち往生する、みっともない自縛シーンをつい最近見てきた。
そんな光景を思い浮かべ、
「来年だな、今年は北海道のソバ産地にソバの品種がどうのこうのと言えるような状態じゃないし、農家も製粉所もそんな要望を受け入れる余裕などない。来年の作柄に期待しよう、来年は《ボタン種》のソバ粉を入手してやる」
と板場の主任に言い渡していた。
と、そのとき、ホールスタッフが板場に飛び込んできた。
カウンターで蕎麦をお客様に出す指示をしていた女将も寄ってくる。
板場の若い衆もそのクダンのお客様に気がついたのか、板場に緊張が走る。
一番年下の若い衆は、もう塩壺を持ち、主任に制止される。
ホールスタッフがご注文をクダンのお客様に伺いに行く。
板場から見守る、心なしか注文の会話が長い・・・・!
客席が見渡せる中台(ナカダイ:蕎麦屋では最終盛りつけ権限スタッフいう)が目線を私に向けるが、それを無視し平然とした振りをする。
内心は、
《もう一度来店下さるって事は、まずは良かったわ》
《お客様を怒らせて帰らせるナンテ寝覚めわるくてしょうがねぇ、今日は絶対怒らせて帰らせるわけにはいかん》
と思いながら平然とした態度を装い、仕込み作業に入る。
客席から戻ったホールスタッフの、
「本膳ンンン、菊正冷やで一本と板わさ一丁ぅぅ、お声がかりで新蕎麦せいろ1枚ぃぃぃ」
とクダンのお客様のオーダーが板場に通される。
板場のスタッフは復唱をして、板場はいつもの空気が流れる。
ご注文を伺ったホールスタッフが板場に入って来て、
「お客様が、ご主人手がすいていたらお聞きしたいことがあると伝えてくれ、とおっしゃってます。」
「またまた、オヤジ出せぇ、ですか。」
と、板場の若い衆がふざけて横から口を挟み、私に睨まれ、首をすくめ洗い場に逃げこむ。
「ン! そうか、お声がかりのせいろ召し上がったら、合図くれ!」
「ハイ!」
《今度はな絶対怒らせるような話にはさせんぞ!》と思案する。
やがて、
「お声がかりのせいろお願いしま〜す。」
《タイショー、用意お願いしますぅぅ。》
と追い掛けてホール主任が小声で通す。
「あいよ、スタンバイ、オーケーだ。」
「では、食後のお茶お持ちしますので。」
前掛けを外し、板場から客席をみる。
そのお客様、冷や酒に板わさ、〆はせいろそばで粋にきめてくれている。
「お客様と同じ菊正冷やで一本用意せぇ!」
と指示をだすと、女将が「誰に言ってるの」という表情で、既に用意してある菊正冷やの片口の載ったお盆をさしだす。
「やるじゃねぇか!」
「タイショー、頑張って!」
の女将の声を背にお客様の席にむかう。
「いらっしゃいませ、先日は大変失礼を致しましたのに、叉ご来店を賜り御礼申し上げます。今日はそのお詫びに一献。」
「これはご主人、こちらこそ先日はいきなりで大変失礼をいたしました。」
「とんでもないことです、お客様商売でありながらお客様を怒らせて帰らせてしまうなど、年甲斐もないことで。」
「いやぁぁ、私もソバ粉を何処から仕入れているか証拠の納品書みせろなど、帰宅して妻に話して逆に叱られました。」
今回は、名刺を交換する。
商社関係の品質管理の仕事をされている。 ナルホド、と唸る。
「納品書をお見せしてもお客様が望むソバ産地判明や外国産ソバ粉混入の有無の判明にはならないことはご納得いただけましたでしょうか?」
「私も馬鹿な質問をしたものです。
ただ、一般の消費者である蕎麦ファンが安心して道内産・国内産と 納得できる、そんな手だてはね、無理なものなのでしょうか?」
「う〜ん、今ですね、日本麺類業団体連合会という蕎麦屋の全国組織 が《標準営業約款》というのを蕎麦屋業界で来年11月に導入することを決定しました。これは日麺連に加入する蕎麦屋一軒一軒が厚労省と交わした約束事項を認可を受けて《約款》として実行するものです。
この《標準営業約款》の目玉はというと、
- ソバ粉の含有率の表示 「ソバ粉70%以上」
- 麺およびツユの製法表示 「自家製か否か」
を明示するわけです。
「ホォォ、なるほど今までソバ粉とつなぎ粉が何割なのか表示する店少なかったですものね」
「はい、聞かれて正直に答えるならまだしも、同割(5:5)でも二八なんて表示する蕎麦屋が残念ながらある現状ですから。 もう《素材、食の安全安心》時代に入っているわけで、蕎麦屋もそのくらい表示しないと、時代に取り残されます。」
「70%以上ソバ粉を使用しないと蕎麦屋じゃない?」
「はい。 実はこれは大変な事なんです。 蕎麦屋の立地事情・条件でそう出来ない蕎麦屋もないわけではないんです。 とりわけ出前中心のお店では少しでものびないで配達先にお届けするのに、70%以上を保つのは難しい、という声もないわけじゃないんですわ。
が、《標準営業約款》に登録する蕎麦屋は、より品質の向上を目指し、おいしい蕎麦を提供するという意気込みで70%をクリアする、としたわけです。」
「『意気込み』でですか? それで70%で統一できますか?
「以前小樽の蕎麦屋仲間で「のびない」蕎麦を出前でやれないか、という論議がありましてね。 大方の蕎麦屋は「そりゃ、ツナギ(小麦粉)を増やすよりないだろう」となりましたが、「それじゃ、蕎麦屋としてのプライドはどこにあるんだ。」と出前中心の蕎麦屋から声があがったんです。
出前中心か否かにかかわらず、蕎麦屋のプライドと店主としての経営のギリギリを追求しているわけです。」
「そうですか、出前が主の蕎麦屋さんは大変だ。 出前の蕎麦と馬鹿にしていた私、恥ずかしい。 色々な立地の蕎麦屋さんを抱える組合としても大変なんですね。」
「ま、腕のいい蕎麦職人が打った60%蕎麦とアンチャン子や麺ロボットで打った70%蕎麦じゃあ、絶対前者の方が旨い。
ただ%だけがいいってものでもない、のですがね。」
「ソバ粉の産地表示は?」
「ウゥゥム! 痛いところをつかれますねぇ。(^^)
実は消費者さんの要望もそこが大変強っかたのです。 で、私ども蕎麦屋サイドもそれを実現するよう強く望んだのですが、製粉会社サイドから《蕎麦店に届ける段階でソバ粉原産地表示は義務化されていなくて明文化は無理》となってしまったらしい。
蕎麦屋サイドは製粉会社がやらないでは蕎麦店で表示はやりたくても不可能なわけです。
まだ製粉業界は《原産地表示》と《ソバ粉とツナギ粉がどのくらいの割合のブレンドなのか》が、蕎麦屋と消費者の関心が一番強い事への認識が甘い。
残念ながらまだそんな業態なのです。
全国蕎麦製粉協同組合は、《そば粉等の品質表示に関する発表》で
- 名称
- 原材料名及び原材料の産地
- 内容量
- 賞味期限
- 保存方法
- 製造業者氏名及び住所
を明記すると業界指導・努力をしてます。」
「そうなんですかぁ」
「製粉業界も自分から積極的に原産地表示するくらいの姿勢がとっくに問われているのです。
まだ護送船団方式というか赤信号ミンナで渡れば・・的感覚があるんでしょう、だから不信感が払拭できんです。_
「一軒一軒の蕎麦屋さんだけではどうしようもない?」
「いえ、蕎麦屋が製粉会社や製粉所に要求することから始まる。
私のところは江丹別産、北竜産とか明示して納品されます。 製粉会社にそう明示できないソバ粉は納品するなと言いますから。」
「蕎麦屋さんのやる気の問題であり、製粉会社さんのやる気の問題だというわけですね。」
「そのやる気が問題なんですわ。 喉元すぎたら・・てぇ具合にならなきゃいいんですがね。」
「ところでご主人、実際どうでしょうか、外国産を混入されるとソバを打っていて、わかりますか?」
「100%道内産ソバ粉に外国産のソバ粉を混入したとしても、その混入割合がどのくらいかが決定的で、そんな簡単にわからんでしょうね。 確信犯でやる製粉所だって、蕎麦屋のソバ打ち職人がすぐわかる割合で混入するなんて下手やらんでしょう。」
「そうですねぇ」
「確かにソバ産地の販売ルートを握る人間の中には悪質な業者もいないといい切れない。 国産の主力の道内産ソバ粉は、現在、カナダ産品の約4倍の価格で取引されてますから、この開きに目をつけて、昨春旭川市で「江丹別産」と銘打った中国産ソバ粉(道産の7分の1の価格)を袋替えして出荷し、露呈して摘発された事件もあったくらいです。
ソバ産地と消費地の業者が、「悪魔の囁き」に負けたわけですな。
これを首都圏の消費者らが「旨い」といって食べていたのだからソバ粉は“魔物”だし、人間の舌も案外当てにならない。」
「ウゥゥム」
「ま、分析機を蕎麦屋がもっているわけじゃありませんからね。」
永年ソバを打っている職人は「感」でちょっと今までのソバ粉と違うぞってね、わかる。 だから、蕎麦屋はソバ粉がなくなってから注文しない、少し予備を残しておいて注文し、これまで納品されていたソバ粉と同じかを確かめる、それはソバ打ち職人の当たり前の心がけです。」
「なるほど。だったら何故そんなバレル可能性あるのに、外国産ソバ粉の混入なんてことを?」
《 いよいよここから本番だ。 これで怒らせたらもう三度目の来店はない、と、深呼吸する。》
「 そこです、お客さん、《混入》が全て悪いって理解はね、いけねぇ」
「だって、外国産を混入して道内産って表示する、混入でしょうが! ご主人の話は時々そうなる、だから話が変にこじれる。」
「ははは、スンマセン。
いえね、ただですね、お客様が問題にされた外国産のソバ粉を混入したと新聞で批判された製粉所のケースは、今さかんに新聞で叩かれている「偽装表示」というケースとちょっと違うんです。」
「ほぉぉ、それはどういう意味でしょう?」
「まずですね、混入という言葉の持つ響きや印象を捨ててほしいです。
《混入》ていうとナンカ悪くて、《ブレンド》だとか《調合》 てぇと悪くない印象ってあるでしょう? ソバ粉に限らず、ブレンドすることで《味》が向上するという世界は調理の場合沢山あります。」
「まあ、それはわからんわけではないですね。
お酒でも二種類の酒をまぜるといい方に引っ張ってしまう、という話聞きます、ウィスキーはその逆で悪い方に引っ張る、と。」
「でしょう! ソバ粉からちょっと離れてみましょう。
弊店の《そばツユ》は、弊店では本枯本節・荒亀節・宗田節にもう2種類、合計5種類の節を調合=混入します。
これが本枯本節1種類じゃ。そばつゆに深みやコクなどが出にくい。
これは混入=調合のいい例です。
それはソバ粉の世界にだってある。」
「一体全体、ご主人、何を言いたいのです? 何か混入はいいことだ、と居直っているように聞こえますが?」
「あはは、申し訳ありません、前置きが長くなって!
道産ソバは主要品種「キタワセ」をはじめ、ソバの病気に強い「キタユキ」など数種類が流通していますがね、店頭で販売した一キロ詰めソバ粉の表示が「道産そば100%」としながら、アメリカで栽培して逆輸入した(ボタン)ソバ粉を混入、ブレンドして販売したのは消費者に不信を与える表現だ、って新聞で批判された製粉所のケースはね、実は、本州顧客蕎麦店で最も人気の高い「ボタン種」をわざわざアメリカの農家に栽培させ、収穫後に空輸で送らせる程のボタン種(米国産ロイヤル種)と北海道産キタワセ種とのブレンドだったんです。
粉の緑の発色も風味も良好で、大変評判もよかった。
ブレンドによる良い例の典型なわけですよ。」
「ほう、ということは、つまり、中身は輸入のボタンソバ粉を混入、いえブレンドしたとはいえ、蕎麦屋さんにとっては「本物志向」を堅持しているソバ粉だ、というわけですか?」
「はい、いやぁうれしいです、そうご理解していただいて!」
「そういうことだったのですか?」
「弊店は生憎その製粉所さんと取引はないのですがね、私ども蕎麦屋の組合でその製粉所さんと取引している蕎麦屋さんがもう新聞報道に憤慨されて、組合会議で報告されたわけです。」
「話は聞いてみないとわからんですなぁ。
でも、製粉所が消費者に粉構成の複雑さを逆に積極的に説明すべきだという、反省点もその製粉所さんにあるんじゃないですか?
先程ご主人が言われたソバ原産地表示に積極的でないという製粉業界の時代遅れの認識もある。」
「おっしゃる通りですわ。
ま、過去にソバ粉に小麦粉や米粉を混入した製粉業者や、先程申し上げた旭川の悪質業者もいることも、それを助長してはいますがね。
製粉業界が、混入=悪というマイナス・イメージにしばられているのです。
数年前に作付け候補地を探し、それがたまたま米国だっただけで、それをあくまでも味の追求だ、とその製粉所はエバってアナウンスすればよかった。
正直に何故ブレンドするのかを明示しての商売のほうが持続的な売上拡大と評価を受ける事は今や様々な業種で明らかになっているのですがね。」
「ということは、新聞報道も問題じゃないですか?」
「新聞社は「道産品の優良性の強調のあまりの誤表記だった」と謝罪させれば、それでいいかもしれんがね。
その問題のソバ粉が、厳密に言うと袋表示は「偽」だが、中身は名品の「ボタン」種をブレンドした製品だった、粉の緑の発色も風味も良好で、ブレンドにより高い評価を得ている、というフォローはんせわけです。」
「うぅぅむ!」
「新聞社が悪質偽装表示の業者を摘発するのはかまわんのです。
大阪の輸入会社と倉庫会社が結託してカボチャだ、ブロッコリーだ 、ゴボウだと入れ替えて高値で売るなんて、どんどん告発してほしいし、薬品つかって肉の色を鮮度あるように発色させ陳列するスーパーなどをどんどん告発してほしい。
新聞チラシで、なんだこれは!てぇ偽装教示・誇大広告が横行しているわけだから。」
「残念ながら飲食世界は叩けば埃がまだまだでる世界ですね。」
「私達飲食店関係者は、それを言われるのが一番つらい。
が、飲食に携わる私どもにしてみれば、味噌と糞と一緒はこまる。
中身は輸入品とはいえ、新聞が言う「品質を、実際より著しく良いものと消費者に誤認させる不当表示」(優良誤認)の疑いと、 今回の製粉所のソバ粉にかける姿勢とは、まったく次元の異なる話ですわ。
ソバ粉の品質向上、育成にかける情熱と愚直さを持つ製粉所があっていい。 それが、いきなりパンチを食らったのが今回のケースなんですな。
そば打ちブームの背景に、蕎麦屋の努力とそれに応えようとする製粉所の苦労がある。
一方、メディアは「入り口」に留まって、批判だけは、する。
私も某新聞社から外国産ソバ粉混入問題に関しコメントをと言われて、
「高品質のソバ粉を納品する製粉所と蕎麦屋業界では評価の高い会社だったから信じられない、もし本当だとすると受注量が生産量をオーバーしての事かも。説明責任が大事だ。」
とコメントしてしまった。
もう少しウラをとってからコメントすれば良かったと反省してるんです。」
「そうだったのですか。」
「問題がおきるといつもそうだが、道や公取委がそれに同調のそぶりを見せたのも安易だわね。
温泉問題でもそうだったしょ。
温泉のレジオネラ対策や新泉源掘削での泥水対策の《安全・安心》 対策での水道水使用がいつの間にか100%水道水温泉ナンテね。 それと同じで、そばの仕組みを知らない関係者がしゃべりすぎる。
そば切りは日本食の典型であり、つゆも含めて日本人のそばへのこだわりは、いうまでもなく世界に誇れるものとおもうんですよ。
しかし官民挙げての的外れな拳の振り上げぶりはなんとも奇異な大合唱に映る。
今回のボタン種ブレンドのソバ粉やその製粉技術を支持する本州の名店も少なくないと聞きます。
それがこんな形でパンチをくらい、当該製粉所はボタン種ブレンドソバ粉の生産を一時中止せざるを得なかった。
国産の四割の量を受け持つ主産地・北海道と、これまで取引していた蕎麦屋は、その供給パイプが途切れるわけですな。
で、全国のそれまでの取引蕎麦屋さんから再開をと声があがり、今は「北海道産キタワセ種と米国産ロイアル種のブレンドしたソバ粉 」と表示を明確にして販売をしたんですわ。
最初からそうしておけば、と。
北海道新聞でそばのコラムを連載している北海道ソバ研究の第一人者・渡辺克巳氏が来店された際、
そば打ちは職人芸である、と同時に玄そばの生産・確保と高級なソバ粉の生産・製造・納品システムは、シャボン玉のように華奢なんです。
とおっしゃられたのが耳にのこります。
最近の手打ち蕎麦ブームでは麺の味で産地にやかましい。
が、我々蕎麦屋にとって製粉所の機能、鰹節屋さんの製品ルートも決め手である事はわかって頂きたいです。
このことは、最近手打ちそばを始めた方や蕎麦ファンに是非言いたいですね。
製粉所が畑→消費者間の中継者をかねていることが多い。
腕のいい製粉所ほどおおむね零細経営なんです。
製粉所がダメージ受けると、せっかくやる気を起こしているソバ栽培農家も及び腰にならないとも限らない、その辺を是非理解して頂ければ、と・・・。」
「いや、今日はいい話を聞きました。蕎麦屋の店主は語らない人が多すぎるというのが今日の印象ですわ。」
「私のように語りすぎるのも、ちょっとね。」
「うぅぅん、納得できますなぁ。」
お客様は上機嫌で帰られる。
女将とホール主任が拍手で迎える。
「誰だ、《またまた親父出せぇ》ですか、なんてナマ言った奴は!」
「フクロウって言った奴もいたな。」
と、板場に立っている若い衆を睨み、1m80の背丈だけが一丁前の若い衆は1m50に縮こまったように首をすくめ冷凍庫の陰に隠れる。
ホール主任が
「クレーマーじゃなかったんですね。」
と安堵の表情を浮かべる。
「意見いうお客様をクレーマーなんてすぐレッテル張っちゃいかんな。」
「は〜〜い。」
矛先が自分たちに来るとあわててスタッフ達は仕事に戻る。
帳場で女将と二人になる。
帳場の裏のMacに向かうと、
「お片づけにお席にいきながらタイショーのお話聞かせてもらいました。」
と女将が話しかけてくる。
「な、蕎麦組合の寄り合いに出かける俺を、又酒飲み会かなんて思っているだろうが、ちゃんと皆で大事な話はしてるんだかんな。」
「ハイハイ」
「女将もあのくらい言えるようにならんとな。」
「とても、とても! アナタが言うからお客様も納得されるんです。」
ン? ・・・きた!
《タイショー》が《アナタ》になると危険信号だ。
「ウフフ、ブレンドすることで互いの良さが引き立つ、いいお話です。」
「コホン、ま、まあな。み、皆、混入=悪と思う風潮がな、あるから。」
「アナタと私のブレンドで娘達ができたんですものね。良さが引き立つ大人になってくれるといいですね。」
「そ、ソバ粉の話が、ナ、ナンダァ・・・」
と、女将をみる。
と、・・・・普段より化粧が濃い。
「お、おぉぉい、明日の仕込みまだ残っているかぁ?」
と、板場の主任に声をかけあわてて帳場から板場に逃げ込む。
「仕込み終わりました、タイショー、帳場で休んでいてください。」
と、また1m80cm若い衆が余計な口を挟んでくる、
「このぉ、さっきから散々口は挟みやがって、この《蕎麦屋の湯桶》やろう!」
ついに拳固をくらわせる。
若い衆は頭を押さえしゃがみ込み痛がるが、私の背中にはそんな拳固より痛い女将の目線が鋭く突き刺さる。
帳場から、女将が
「さあ、みんな、さっさと仕込み終えてあがるのよ。」
何も知らない若い衆はさっさとあがり支度し、
「アナタもお疲れ様、・・・お風呂たてますね。」
と女将の声が響き渡る。
・・・握った包丁がまな板に落ち、椎間板ヘルニアの腰が震えた。
この項、完
The END